Ririka Fukuyo
TED Talks
2018年1月にTEX x Rikkyou Uに出させていただきました。
トイレから始まる意識改革の時代へ
The toilet can change your way of thinking
(日本語訳全文)
“3年間”―3年間 と言って何を想像しますか?
日本だと中学に入学してから卒業するまでが3年間です。その間、色々なことがありましたよね。勉強したり部活に忙しかったり、初めて恋人ができた人もいたかもしれません。長かったですよね。
ところで、人が人生のうち3年間を過ごす場所があります。それは――トイレです。世界トイレ機構が「人は一生のうちトイレで3年間を過ごす」という調査結果を発表しました。トイレは大っぴらに語られることは少なくても、人生に大きな影響を与えているのです。
また、こんなおもしろい調査もあります。日本トイレメーカーTOTOが行った調査で、84パーセントの回答者が「トイレ空間の快適性は仕事のモチベーションに影響する」と回答したそうです。トイレが快適だと仕事のモチベーションがあがるのですね。
このように考えると、もはやトイレは、排泄のためだけの道具ではなく、人の意識に大きな影響力を与えるツールになり得るのです。トイレって、私たちが考えるより深いのです。トイレの在り方が変われば、人の意識を変えることができるかもしれません。
ではトイレが人々の意識を変えるとはどのようなことでしょうか?例えば、これらの例を考えてみてください。
先日、家族と温泉旅行に行ったのですが、その際に立ち寄った駅のトイレにこんなものがありました。最近よく見かけますよね。近年では訪日外国人の増加に伴い、多言語表示のトイレが増えています。高速道路サービスエリアなどではトイレの個室に一台のモニターが付いていて、言語を選択するとそれぞれの国の言語でトイレの使い方についての説明を聞くことができます。
これは人々に潜在的に「色々な国の人が日本に来ていて、同じ社会の中に共存しているのだな」という意識を日本人に植え付けているのではないでしょうか。
さらに、多目的トイレの存在が私たちにもたらす影響について考えてみてください。たいていの人が多目的トイレに入ったことがあるでしょう。車いすが入れるようにエントランスは広く作られており、トイレの隣には手すりが、またオストメイトの方が用を足した後に使うシンクも設置されています。多目的トイレに入った経験がきっかけで、オストメイトや車いすの方のニーズについて知った人は多いのではないでしょうか。
これは、「障害」や「自分と違いを持つ人たち」について考えてみよう…などと教科書や道徳の授業で教育するより、よっぽど自然に学べる方法でしょう。
ところで、日本人口のうち、外国籍の人は何パーセントを占めるかご存じでしょうか。実はたった1.8%なんです。OECD諸国平均は13%であることから、日本社会は多様性に乏しいと見られがちです。そのため、「自分と違う」人々の視点に気が付きにくい傾向にあるのではないでしょうか。
また、男性と女性の間で家事分担率に大きな差があります。日本人男性は女性の5分の1しか家事をしないというデータがあり、先進国の中でもかなり低いのです。
そのようなバックグラウンドのある日本において、トイレという切り口からこれらの問題を解決できないでしょうか?
例えば、こんなトイレを設置すれば社会に良い影響を与えられるでしょう。
●みなさん、オムツ替え台って見たことありますよね?ここでうなずいて下さった方の多くは女性だと思います。
男性トイレにそれを見かけることは女子トイレに比べて少ないでしょう。ではもし男性トイレにもっと多くのおむつ替え台設置したらどうでしょう。男性も子育て世代の人について考えるきっかけになり、「今では父親・母親関係なく子育てに参画する時代なのだな」という意識を人々に植え付けられるのではないでしょうか。
●また、トイレは男女別に二分化されるという固定概念をぶち破ろうではありませんか。性別は必ずしも男女の二つではないのです。性社会・文化研究家の三橋順子先生の考察によると、男子トイレ・女子トイレとは別にオールジェンダートイレや多目的トイレを増設すれることが大切だそうです。このようなトイレは、私たちの性的マイノリティーに対する理解を深めることができるのではないでしょうか。
●最後に、宗教の違いによるトイレの使い方の違いを紹介します。例えば、この写真を見てください。シャワーが付いてますね。これはどう使われると思いますか?実は、イスラム教徒の一部は用を足した後にシャワーでお清めをするのです。そのため、近年ではムスリムが日本のトイレを使う際の困ってしまうケースが急増しています。シャワー付きトイレを設置することは、来日したムスリムの人々を助けるだけでなく、私たちに「様々な宗教の人が日本にいて、共存しているんだ」という意識を植え付ける助けをしてくれるかもしれません。
これらの提案から私が言いたいことは、トイレでの困りごとやニーズを知ることは、その人自身について学ぶことになります。トイレの利用という何気ない行為であっても、それは私たちの多様性に対する意識を変え、人々の弱い部分やちがいについて考えるきっかけを与えてくれるのです。
さあみなさん、こんなに長いトイレの話の後には、そろそろトイレに行きたくなってきたのではないでしょうか。
明日から、公衆トイレに入る際、三秒だけ、私のスピーチを思い出して、トイレを見てみてください。あなたのその意識が、社会を何倍にもより良くしていくでしょう。
ありがとうございました。